中村朝咲

Nakamura Asaki

瞼の裏、
あるいは外側の風景
The back of the eyelids or the outside of the landscape

インスタレーション|銅版画インク、雁皮紙、木パネル|ドライポイント
Installation art | Copperplate engraving ink, paper, wood panel | Drypoint

作者より

なぜここにいるのか、なぜ息を吸って吐いているのか、私は不思議でたまらない。
世界はいつもぼんやりしていて、確かなようで全然つかめない。
現れては見えなくなる。大きな流れに紛れていく。
瞼の裏に映る風景は、あるいは私の中にある風景であり、あるいは私を含んだ、どこまでも広がり続ける世界の風景、あるいはそのどちらでもあり、どちらでもない。
大きすぎて計り知れない、小さすぎて気づきもしない世界の中を、ただ漂うだけである。

中村朝咲

担当教員より

描かれているのは反復するパターンや、たとえば団地のような風景。あるいは“何か”のようなもの。何を描くのかが重要ではなく、自分も含めた世界の全てをどう描くのか、どう捉えるかということ。そのうえで、銅版画の被膜に覆われたパネルの厚みこそが、描かれたイメージを支持体という引力から逆説的に解放、純化している、というのが第一印象だ。中村朝咲はドライポイントという、至ってシンプルな技法で、しっかりと根を張りながら新たな地平を開拓しているかのように、ひたすら銅の表面を耕し続ける農夫のような制作を続けている。銅という大地に素手で立ち向かう勇気と潔さ、そして軽やかさ。ニードルで反復しながら刻まれた無数の傷は、目を閉じれば立ち現れる、瞼の裏の襞の中に感じる外側の風景に確実に繋がり、今までに見たことのない銅版画感を醸し出している。

油絵学科教授 高浜利也