チョウ ウリン

ZHANG Yulun

88512963

紙、インク、石膏、銅版画、モノタイプ
サイズ可変

作者より

タイトルは昔、私が中国で暮らしていた実家の固定電話番号である“88512963”を意味しています。自分が生まれ、育てられた「原生家庭(Family of Origin)」で最も弱い立場の構成員であった私の視点で、そこで経験した出来事や断片化された記憶、感情などのイメージをまとめた“物品カタログ”をつくりました。それは、小さな立体物の表面に絵や言葉を印刷し、本のような形にまとめることで、自分の私的な記憶のアーカイブとなっています。もし、こういったプライベートな一連の取るに足らない出来事や感情を、私が作品として制作し記録、複製できれば鑑賞者と同時代を生きる私自身の「原生家庭」の様子を、広く社会に認識してもらえるでしょう。

チョウ ウリン

担当教員より

床一面に、数多く並べられた小さなオブジェに目を奪われる。作者が「原生家族」と呼んでいるHOME(=家族、家庭、家など彼自身のアイデンティティーをかたちづくる場所)をテーマに、個人的な記憶の象徴としてのイメージを銅版画やモノタイプに置き換え、立体物の表面に転写したインスタレーション。遠目には小さなビル群やまちなみにも見えるが、近づくと実はひとつひとつ何らかの図像が描かれた「印刷物」だと気づく。紙や石膏など多様な素材からなる支持体の表面に刷りとられたイメージはインクの重なりとともに、作者の想定を越えて無限の空間へと拡がっていく。近年、版画からブックアートへの展開の途上にある作者の心情を色濃く映し出しながら、書物のページをめくるように絵が繋がり、いずれ床に転がる本のかけらたちによって無二の私小説が編まれていくだろう。

油絵学科教授 高浜利也