奥田菜睦

OKUDA Nachika

きつねが嫁にいった日

映像|6分50秒

作者より

「土地に根付くエネルギーに触れる」ということをテーマに、わたしの地元を舞台にして制作した手描きアニメーション作品。自然と住宅の中にぽつりとある神社には、他とは異なる空気が流れ、その土地が持つエネルギーや生命力が根付いている気がする。そこで参拝することを通してそれらを感じ、何か神秘的なものに触れる感覚を、天気雨や情景の描写を交えて描いてみたいと思い制作した。

奥田菜睦

担当教員より

アニメーションの基本は描くこと、動かすことである。
しかしそれによって表現されるものは、決して目に見えるもの、動くものだけではない。
主観的な世界を描くことができ、加えてその度合いを細かく設定することができる。
また当たり前のように止まっていたり静かに在るものに意識を向け、描きだすこともできる。

本作は個人を取り巻く客観的な風景と、個人の心を通して見・感じている主観的な風景が絶妙なバランスで共存している。
風景に対し写実的である一方、アニメーションならではのリアリティにも迫ろうとしているのである。
描くこと、動かすこと、に注目して見遣れば、アニメーションの独自性に対する作者の意識を窺うことができる。
わずかに揺れる葉や主人公の輪郭は、彼女(主人公)の心の状態を反映している。
白色は陽光・雨・霧を通して光に変換され、次第に輝きを増しながらこの世界に飽和していく。
視覚的なイメージは微細なレベルで確実にコントロールされ、アニメーションだからこそ描きだせる機微を湛えている。

主人公を取り巻く風景は、在るものを在るものたらしめるべく、作者が世界と取り結んだ関係の結晶であり、アニメーションが描きだす「リアリティ」の可能性を示してくれている。
目には見えないはずの澄んだ空気が現前する。

映像学科専任講師 髙谷智子