羽部空海

HABU Solami

DOCOOK

映像|4分24秒

作者より

留守番をすることになった少女は家中のものを使ってあることを始める。

羽部空海

担当教員より

アニメーションの世界は記号と模倣に充ちている。描かれるものの多くは、現実を記号化し模倣することによって成り立つ。描かれた絵が指し示す現実の対象を確認できれば、私たちはアニメーションの世界と安心して関係を結ぶことができるが、そこには常に現実によって存在を規定されざるを得ないというアニメーションの宿命がある。しかし本作に於いて、絵と現実の関係は絶妙な形で断ち切られ、再接続され、私たちの認識はずらされていく。絵が形状のみならずその本質に於いてメタモルフォーゼ(変態)していくというアニメーションの特性<原形質性>を、作者は巧みに操り、私たちの認識を見事に裏切っていく。アニメーションは不連続なコマの連なりであるが、ときに絵の指示対象はコマ間で変化する。現実世界では起こりえないその様はしかし、決して嘘ではなく、アニメーションの特性によって獲得される独自のリアリティを有している。絵と現実の関係を逆手にとることで、私たちの現実認識を揺るがす本作からは、アニメーションとしての力強い自立が感じられる。
それだけではない。作者は本作に於いて、アニメーションの持つさまざまな要素を最大限に活かし、一貫した説得力のある世界を構築している。シンプルなアイデア、制限された空間内での巧みな画面構成、美しい色彩にコミカルな動き、抜かりのないストーリー。何より観客を楽しませようとする作者の態度が、私たちがこの書割だらけの世界に対する不安あるいは疑いを持つことは不要であることを約束してくれている。私たちは安心してこの世界を楽しめる。完成度の高いエンターテイメントに仕上がった。

映像学科専任講師 髙谷智子