川野千鶴

Kawano Chizuru

エルボ
elbow

インスタレーション、映像|紙、アクリル絵具、ジェッソ、釘、木材、プロジェクター
Installation art, video|Paper, acrylic paint, gesso, nail, wood, projector
H1820 × W2730 × D1800mm ×3点 10min ×3点

作者より

東京の月島にある長屋を部分的に撮影し、編集で組み合わせ、非現実的な一つの風景を作り上げた。長屋ならではの剥き出しの配管や、色彩豊かなトタンに着目して、それらをより強調させるためのレリーフを作り、映像が与える情報と紙の輪郭線によって、さらに「もの」の造形をはっきりさせた。プロジェクターから放つ光が支持体の紙に馴染んでいく姿は幻想的で、4年間映像というものに触れてきたが、まだまだ未知だと感じた。

川野千鶴

担当教員より

川野の作品を還元的に辿れば、二つの優れた地点が覗える。一つめは、実際の都市を一つの作品として観て、アッと驚いて、幸せでいる地点である。この時、川野が見詰めているのは、生きられた家々の痕跡としての線、水道や電気、ガスの配管の線、各種メーターやエアコンの室外機、雨樋などに別々の方向から集まってくる線、である。第2の地点は、その気まぐれで、偶然、例外としかみえない線を、秩序と必然と法則として表さなければならないという強い意志である。そこで、川野が採った方法は、それらの線を薄い紙による層状のレリーフとして制作し、それをスクリーンとすることであった。そこにぶつけられた映像の黒は、この上もなくマットで、そこに光の様に現れた配管の線は「デザイン」された形の輪郭線のように、思わず、美しい、と言ってしまう。そして、次に長い時間の中で生きられた長屋の線がそこに加わり、そしてすべてが消えて、道だけが現在として残る。

映像学科教授 板屋緑