後藤千尋

Goto Chihiro

乾杯
KANPAI

映像|手描きアニメーション、デジタル作画
Video|Animation, digital drawing
17min 37sec

作者より

「あなたへ祝杯を」
送ることが役目の親子と、送られる1人の女性の話しです。
霊園を経営する市村家の人は霊感があり、仕事として何人もの霊を送っています。1ヶ月前に交通事故で亡くなった高宮ゆきこ(27)は、成仏出来ないまま霊園に留まっていました。霊園経営者の市村さえ(42)は彼女を心配し、手を差し伸べようとします。後悔を拭い去るため、彼女はさえの運転する霊柩自転車に乗って旦那の下へと向かいます。この世界では見送りの際は乾杯を行います。無事に成仏した霊へ祝杯を上げるという意味が込められていますが、周囲の人々は霊が見えないため、この一連の行為を「不気味な儀式」と認識しています。霊園は住宅地のど真ん中にあり、近隣住民は霊園に見えない何かがいるように感じ、敬遠します。加えて市村家も周囲から避けられています。
主人公の市村みゆき(16)は、家の仕事は決して悪いことではないと理解しつつ、周囲(作品内ではクラスメイト)との関係が上手くいかないのは家のせいであると日々に不満があり、母親とぶつかることもしばしありました。墓地、葬式、霊柩車が市街地から追いやられる傾向にある現代社会と私たちの日々の生活の後悔をテーマとした作品です。

後藤千尋

担当教員より

アニメーションの語源には「命」という意味がある。線で描かれたキャラクターたちが動画空間で息づいている。記号表現に依存する事なく緻密な演出で乾いた現代人の心へ力強く語りかける骨太の人間ドラマを紡ぎ上げた。あの日から「死者との共生」は未来に向かって生きる僕たちの新たなリアリティーとなった。世の常識では故人を送る杯は「献杯」だろうが、この映画を見終わった時、誰もが『乾杯』という題名に深い共感を覚えるに違いない。

映像学科教授 黒坂圭太