松丸育美

Matsumaru Ikumi

<概要>
本稿では、絵画がファッションに与えた影響について論じる。サンドロ・ボッティチェリ《春》に影響を受けて制作された、2つの衣服と《春》を比較検討することによって、文化の連続性や、領域横断的な視座を持つことの有効性を述べる。
文献調査を通じて、絵画がファッションに与えた影響の例を紹介した後、《春》の作者であるサンドロ・ボッティチェリについて述べる。《春》が制作された背景や目的を整理し、作品の図像解釈を行う。この絵画に影響を受けたローザ・ジェノーニとアルベルタ・フェレッティという2人のファッションデザイナーの作品を《春》と比較検討する。
絵画はその耐久の優位性から、消耗品よりも長く保存される。さらに、長い年月にわたり、芸術以外の分野に影響を与えることができる。また、メディアの発達により、絵画作品を目にする機会は以前よりも増えているため、影響力は強まることが推測される。尚且つ、衣服が現存していなくても、絵画が画面に衣服の詳細を保持している場合は、絵画が服飾史の分野でも資料として価値を持つ。
加えて、同じ絵画作品から影響を受けた、別の年代の衣服を検証することによって、その時代の技術や流行のスタイルを読み取ることができる。年代が異なると同じ絵画作品から影響を受けていても、その様相は全く異なるが、それらを同時に考察することで、絵画作品が持つ構成要素を抽出することができる。
従って、絵画と衣服を同時に考察することは、美術史の視点からも服飾史の視点からも有効である。

絵画がファッションに与えた影響
―サンドロ・ボッティチェリの《春》を中心に―
The influence of painting on fashion
-with an emphasis on《 The Spring 》by Sandro Botticelli-

論文
Thesis
43ページ 30282文字

作者より

サンドロ・ボッティチェリ《春》に影響を受けて制作された、2つの衣服と《春》を比較検討することによって、文化の連続性や、領域横断的な視座を持つことの有効性を述べる。《春》の作者であるサンドロ・ボッティチェリについて述べる。ボッティチェリの経歴、並びに《春》が制作された背景や目的を整理し、作品の図像解釈を行い、この作品が保存されてきた経緯にも言及する。《春》に影響を受けたローザ・ジェノーニとアルベルタ・フェレッティという2人のファッションデザイナーの作品を《春》と比較検討する。それぞれのデザイナーの経歴や彼らが作品を制作した背景について考察する。

松丸育美

担当教員より

ルネサンスを代表する画家、サンドロ・ボッティチェリが描いた《春》と、この作品からインスピレーションを受けた、ローザ・ジェノーニとアルベルタ・フェレッティという二人のファッションデザイナー。
この3人が生み出した表現を丁寧にひもときながら、素材が生み出す「絵画」の堅牢性と、作品を守り、伝える場である「美術館」の保存性と公共性が、時空を超えて「絵画」と「ファッション」という異なる表現メディアをつなぐ可能性を論じた意欲的な論文である。

芸術文化学科教授 杉浦幸子