日本美術史における〈犬画〉の変遷と展望
Transition and prospects of dog art in Japanese art history
論文
Thesis
78ページ 39,678文字
<概要>
始めに、「犬画」という単語は造語である。犬画という枠組みは美術史の歴史の中には現存しない。
犬は「人類の最良の友」とも称されるように日本人にとって馴染み深い動物であり、多くの人物が歴史の中で犬の絵を描き出した。
吉祥図として寓意を有するものとして描かれたり、犬への愛情からその姿を描かれたりとその数は数え切れないほどである。しかしながら、日本美術史においてそれらの歴史が顧みられることは無きに等しかった。
そこで、本論文では犬が描かれた絵画、すなわち「犬画」を「造形美術の一。線や色彩で、犬の形姿や内面的イメージなどを平面上に描き出したもの、絵」と定義付けその歴史を紐解いていく。二次元的世界が確立された弥生時代に始まり、「犬画」の繁栄が絶頂期を迎えた江戸時代、そして現代に至るまでの歴史を構築した。
「犬画」の歴史は美術史だけではなく、外交の歴史や博物学、民俗学、歴史学とも密接に関わっている。犬が関係する病で最も有名な狂犬病も「犬画」の歴史と深く関わっていた。それ故に「犬画」の歴史は時代の流れと共に千変万化してきた。
本論文では弥生時代から現代に至るまでの「犬画」の歴史を総括した後、これからの展望を推察し研究を終わりとした。
言葉すら形作られていなかった「犬画」だが、犬と人間、美術や歴史が互いに影響を及ぼしており日本美術史においても非常に奥深い分野であることは間違いないであろう。
作者より
本論文では〈犬画〉を「造形美術の一。線や色彩で、犬の形姿や内面的イメージなどを平面上に描き出したもの、絵」と定義し、その歴史を時代毎に構築していった。研究対象は日本人が二次元的世界を獲得したとされる奈良時代から現代に限定した。研究の結果、犬画は寓意を有するものと寓意を有さないものに二分化することが可能であり、今後は寓意を有さない犬画が繫栄するという展望に至った。
伊藤真珠
担当教員より
本論文は日本美術史における犬が描かれた絵画作品=〈犬画〉の変遷を、日本美術史や博物学、民俗学など様々な文献に基づき調査研究したものである。犬は日本人にとって馴染み深い動物である。日本美術史を研究する人々にとってもそれは同様であるが、今日、犬が描かれた絵画に着目しその歴史を顧みた研究は数少ない。本研究はその希有な例として、深く調査研究され、弥生時代から現代までの〈犬画〉を概観した優れた論文である。
芸術文化学科教授 是枝開