本岡景太

MOTOOKA Keita


boat

紙、歪曲張り子
H1500 × W2205 × W770mm

はりつけの大きなカーテン
big curtain

紙、歪曲張り子
H3580 × W2425 × W545mm

作者より

0ポイントを見失う感覚がある。
いろんな思惑がくり抜き出された先で、世界から漠然としたものが浮かび上がった。

本岡景太

担当教員より

目の前の物を何と見るか。絵本を飛び出たキャラクター、はたまた令和のかれすすきか。酢酸ビニール系の溶剤による張り子ーー「歪曲張り子」と本岡が命名した独自の技法ーーによって、その物は成り立っている。技法が物を通じて不可避的に現すのは、触覚を刺激するマチエール(造形の単位)とその欲求を跳ね返す表面の光沢であり、歪んだ姿勢のまま硬直する形態である。くずれたいのに、くずれない。技法に縛られた不自由な姿が、ぎりぎりのところで物を彫刻として空間に放り投げる。その緊張感は魅力的だ。
4年を費やして到達した独自の技法、その熟練の果てに本岡自身が何を見たか。物は勝手に語るということ。言わば、発声としての表現ではなかったか。本作では、これまで本人が背負ってきた物語ることへの拘り(芸術の青春)が脱ぎ捨てられ、彫刻自体が声を発している。技法とイメージは、作家の手を離れた時にはじめてその可能性を開示する。モチーフの持つ言葉からではなく、彫刻の声を手がかりに構成された展示はその可能性を確かなものとした。
歪曲張り子による彫刻は、原型から離脱した姿=心と形を捨てた造形である。元のイメージをかろうじて保持しながらそれを無視していく様は、デコンストラクションと言うよりも「からっ風」がよく似合う。歪んだボートとカーテン、の様な物がどれだけの風をあつめるのか。

彫刻学科准教授 冨井大裕