東浦心咲

HIGASHIURA Misaki

どの帯びもふさわしい
Every obi is appropriate

出会った理由
The reason we met

嫌でも思い出すとして
Even if you don’t want to, you’ll remember

木製パネル、膠、水干絵具、岩絵具、革紐、U字ステープル、ロウ糸
H1320 × W2040mm、H1610 × W2430mm、H1455 × W1120mm、H910 × W727mm

作者より

ある一本の言葉の収斂のために、長い間身体を小さく竦ませていると、いくつかのイメージを集められる。
閉鎖的な言語の世界が広がることはとても楽しい。
絵を描くことは、そのような私の本能を忘れさせてくれるから安心する。
私はこの世界にあるものに本能があり続けても、必ず一つに結ばれる風景を見たいと思う。

1.
帯びはまず全体の中にある。
帯びの性質は二つあるから、必ず部分的で、関係がある。
一つは全体に向かう本能的なものであり、もう一つは有限的な物質性である。
帯びの始まりと終わりの間でしなやかさは満ちていく。

2.
緑は燃え上がることがある。
燃やされた私は大量の果実を作るようになって、残った私は誘惑に火をつける。
燃え上がる理由は一つでも、私は二つの熱さを知る。

3.
マグカップと私の身体は完璧な関係ではない。うまく混ぜられないで、底に沈んだものを見ないよう最後は急ぐばかりだ。
水中から浮上する時の速さは、別れの時間の速さと似ている。

(革紐は、私たちが覚めないこの世界の夢へ触れ続ける身体の一部。)

東浦心咲

担当教員より

東浦心咲の卒業制作作品群は、明確な主張や物語を語る以前に、鑑賞者の身体に静かに触れてくる絵画である。そこには出来事の始まりや終わりが用意されているのではなく、立ち止まること、呼吸の速度がわずかに変わること、そのような感覚の変化がまず差し出されている。作品は声高に意味を告げることなく、しかし確かに、鑑賞者を自身の内側へと引き戻していく。
作家の言葉に繰り返し現れる「本能」「身体」「結ばれる」という語は、感情や概念を説明するための記号ではない。それらは、世界に触れようとする際に生じる緊張やためらい、そのものとして機能している。その在り方は、メルロ=ポンティが示した「身体は世界の中にあるのではなく、世界が身体のうちにある」という思想を、観念ではなく感覚として思い起こさせる。東浦の絵画において身体は、世界を客観的に見るための視点ではなく、世界と滲み合い、染み込み合う場として静かに息づいている。
画面に現れる線や色面は、結ばれながらも固定されることなく、重なり合いながらも互いの境界を失わない。その関係性は、即ききらず、離れきらずという、緊張を孕んだ均衡のうちに保たれている。そこには日本画に固有の線や余白の感覚と呼応するしなやかさがあり、九鬼周造が語った「いき」の構造――関係そのものが生き続ける状態――を思わせる。美しさが形に宿るのではなく、関係が持続していること自体への信頼が、画面全体を支えている。
また、作品群に通底するのは、一つの出来事や感覚が一つの意味へと回収されないという態度である。生成と消費、引き寄せと残存、記憶と現在といった相反する要素は、互いを否定することなく、同じ画面の中に留められている。その過剰さは、生が常に理屈を超えて溢れ出してしまうものであることを、やさしく肯定している。鑑賞者はそこに、自身の中に名づけきれずに残っていた感覚を呼び起こされる。
日常的な器物や身近なモチーフもまた、身体との微細なずれを抱えたまま描かれている。混ざらないもの、沈殿するものを見つめきれず、それでも時間だけは進んでしまう。その切実さは、喪失や別れを知りながら、なお世界と関わろうとする身体の在り方として画面に滲んでいる。ここで扱われる記憶は、過去を振り返る回想ではなく、現在に触れ続ける重さとして存在している。
作品に添えられた言語もまた、絵画を説明するための補助ではない。それは沈黙を保ったまま触れ続ける、もう一つの造形行為である。言語とイメージ、身体と思考は、互いに完全に重なり合うことはないが、確かに呼応し合いながら、一つの風景を立ち上げている。
東浦心咲の卒業制作作品群は、日本画という伝統的な形式の内側に、感覚や思考の揺らぎを丁寧に住まわせることに成功している。閉じた言語の世界を引き受けつつも、最終的には「必ず一つに結ばれる風景」を信じ、探し続けようとするその姿勢は、個人的な感受性を超え、鑑賞者一人ひとりの身体と記憶に静かに寄り添う。
以上の理由から、本作品群を卒業制作における優秀作品として選出する。それは完成への評価であると同時に、これからも迷い、触れ、結ばれようとし続けるであろう作家の歩みそのものを、慈しみと信頼をもって見送る選出である。

日本画学科教授 岩田壮平