奥泉理佐子

Okuizumi Risako

A – A’

模型|鉄、木、チップボール
Model|Iron, wood, chipboard
H270 × W800 × D400mm H200 × W300 × D250mm ×3点

作者より

演劇の舞台の上で、役者の振舞いにより、自由自在に移り変わる境界線に憧れていた。
脚本通りに自由な境界線を生み出す舞台と、行動は自由であるはずなのに物の位置に縛られる建築。
ふたつを分かつ境界線A-A’を取り払ったとき、どちらともつかぬ空間の移り変わりが生み出されるのではないかと考えた。敷地の周囲に存在するものを「場見る」ことで点へと変換し、風景を忘れて点同士を結び、部材を作る。部材上の素材の切り替え線は、風景上の線から抽出する。そうして現れた空間内の線同士の齟齬は、騙し絵を見るときのように空間の輪郭を体験者に委ね、動かない建築のなかで自在に境界が移り変わっていく。

奥泉理佐子

担当教員より

地形の特徴を色濃く残す数少ない街、新宿区荒木町。狭く急な傾斜地に張り巡らされた小道や建物群はいろいろ工夫する形で自然と調和し魅力ある街並みを作り出している。それらの工夫は、とても微細なスケールの集合で成り立っており、彼女は自然とそれに気づいたのだろう。そんな場所で、彼女はそれらの微細な工夫の塊の断片を丁寧に拾い上げ、自分の建築を立ち上げるきっかけにしている。一見過激なコンテクスチャリズムのようにも思えたが、彼女のそれはこの街の底に眠るゲニウス・ロキを呼び覚ましたにすぎず、そう見るとなんとなく微笑ましく、安心してみることができた。

建築学科准教授 菊地宏