菊池美穂

Kikuchi Miho

戯事~解放宣言~
TAWAGOTO-Release declaration-

漆、砥の粉、麻布、木材、乾漆
Lacquer, clayslate powder, hemp cloth, wood, hollow dry lacquer
H1600 × W800 × D800mm

作者より

以前、屠殺場を見学した。牛や豚の腹を裂くと美しい内臓がボトリと落ち、残された身体にはきれいな空洞ができた。その時、自分自身もこれらと同じようにモノとして美しい構造をした身体を持っていることへの喜びを感じた。また、自分の身体でありながら、見ることができる部分や、自らの意思でコントロールできる部分がほんの一部でしかないことへの虚しさを感じた。

この作品では、「充実」と「空虚」という相反する感情を、ひとつの立体の中に両立させようと試みた。

菊池美穂

担当教員より

目鼻立ちの曖昧な頭部、引き延ばされた首、中身を欠いたコスチュームを拡げる実態感のない両手。中身を欠いた空洞の膨らみから流れ出す粘性のある流体、そのうねりが蛸の足のように下肢を象り、形の全体が無闇に安定する。乾漆というメディウムは、身体的なものの攪乱を幸せな情感に変え、人々の受動的でよそよそしい想像力の器を、作者の悪夢と丹念に共鳴させるだろう。作者は漆というマテリアルが持つ他者をおびき寄せる力を見事に我がものとしたが、そのはじめに仕草として求められた錯覚を何処まで持ち続けられるのか、これから験される。

彫刻学科教授 黒川弘毅