稲垣慎

Inagaki Shin

鸚哥-2
Inko-2


Camphor
H2590 × W1890 × D1100mm

作者より

粘土の塊に手を突っ込み、目では見えない中で空洞を作りその空洞自体を形に置き換える。発端であったインコはこの過程で主観や時には操作出来ない偶然性によって動物的な形の秩序を崩壊させ歪んでゆくのだが、その行為の産物を元にしての木彫はその歪みの正体を解りたいが為、また崩壊した秩序にすり替わって現れた、窺い知れない何かの存在を感じ取ったが為に行ったものである。

稲垣慎

担当教員より

野村萬斎のモーションキャプチャー。狂言の、両足を常に地面に接地させ、上半身はほとんど動かすことなく、摺り足でゆっくりと前進する。この所作は、奇妙でもあり、恐ろしくもあり、あるいは神々しくもあるという。一見して、樟の丸太に鸚哥を忠実に再現したものでないことは明らかだ。稲垣はマケット制作の際に、偶然性をも取り込みながら、かたちにディストーションを加える。それを参考に拡大し、精製し、成形し、樟の丸太に彫り込んでいく。像そのものの形状に、羽根や羽毛がまとわりつき、隆起し、渦巻き、多くの流れをつくりだす。この質量と表面積は空間に心地よいバイブレーションを放ち、我々をのみ込んでいく。最終的に彫りだされた鱗のある強い立脚は、片足を上げているようではあるが、よく見ると両足で地面をとらえているのだ。彫刻とは、一体、何ものなのだろうか? モンスターかクリーチャーか、あるいは神なのか…なるほど、荒ぶる神、それなら合点がいく。歴史上幾度となく現れ、人びとを戒め、同時に復活する機会もあたえた…稲垣はその事実を知っていたのだろうか? 彫刻と密接な関係があるということを。

彫刻学科教授 三沢厚彦