大越梓

Okoshi Azusa

<概要>
ジョージア・オキーフ(Georgia O’keeffe1887–1986)は、20世紀アメリカのモダニズムを代表する画家の一人だ。1776年の独立宣言から歴史も浅く、伝統もないアメリカにおいて、彼女は自己のスタイルが確立するまでヨーロッパに向かうことなく、独自の芸術表現に向き合い続けた。ヨーロッパの芸術をアメリカに紹介し、国内の若い芸術家たちを支援してきたアルフレッド・スティーグリッツ(Alfred Stieglitz1864–1946)との出会いで、才能を開花させたオキーフは花や骨、ニューヨークの都市風景、アメリカ南西部の砂漠の風景を題材とした作品で知られる。
「アメリカ近代写真の父」と呼ばれるスティーグリッツとパートナーになり、同時代の写真家とも交流の深かったオキーフと写真はよく結びつけられる。レンズから被写体を覗いたような視点を感じさせる花や摩天楼を題材にした作品は、その典型だろう。これまでのオキーフ研究は、こうした写真の新しい表現方法からの影響を重視していた。しかし、スティーグリッツとの出会いより前に、東洋美術の理論による空間と構成に触れ、多くの日本美術や中国美術に関わる本を所持していたことにも注目したい。本論文では、東洋の美術はその後の彼女の作品にどのような影響を与えたのか、という問いから出発する。
また、ヨーロッパ美術への関心が薄かったオキーフの作品は「アメリカ的」と評される。それは、アメリカを象徴するような高層ビルと砂漠を主題とした彼女の作品から受ける、広大な空間とつながる。摩天楼が並ぶ都市と近代的なものに侵されていない地方を往復する生活を続けていた彼女は、自国における新旧の世界を肌で感じていた。変化していく環境の中で描き続けた、オキーフの空間について考えていく。

ジョージア・オキーフの描く空間について
The Space Painted by Georgia O’Keeffe

論文
Thesis
75ページ 31836字

作者より

20世紀のアメリカで独自の表現を模索したジョージア・オキーフは、アメリカ近代写真の父と呼ばれるアルフレッド・スティーグリッツと出会い、互いに影響を与えた。これまで彼女の作品は、しばしば写真と関連づけて語られる。しかし、スティーグリッツと出会う前にオキーフは東洋の美術理論に触れており、従来のヨーロッパ美術とは異なる新しい刺激を受けていた。本論では、「東洋美術」から得たもの、彼女の作品に描かれる「空間の広がり」に注目し、「アメリカ美術」におけるオキーフについて考えていく。

大越梓

担当教員より

G・オキーフは、20世紀北米を代表する画家。アメリカ東部の都市風景から南西部の平原までを対象として、その内面を描き出した。その作風については、写真家A・スティーグリッツの構図などと関連させて論じられてきた。本論は、その前に学んだA・W・ダウの東洋美術論に注目し、オキーフが漢画・大和絵の空間把握を自身の制作の軸に据えることによって、独自性を得たことを論証した。そのバランスの良い論理運びが評価された。

芸術文化学科教授 髙島直之