獅子野あんころ(寺井果音)

SHISHINO Ankoro(TERAI Kanon)

巡想
junso

インスタレーション|和紙、岩絵具、水干絵具、胡粉、ダンボール、スタイロフォーム、紙粘土、ほか
H1160 × W1800 × D1800mm

作者より

遠野物語に登場する「オシラサマ」の話と、そのルーツだと言われる中国の「太古蠶馬記」をモチーフとした。
日本のオシラサマの御神体はあくまでも馬と娘のそれぞれの姿となっており、中国の太古蠶馬記のように馬と娘が混ざった姿が神としてある訳では無い。殺された馬と娘が蚕という幼虫へ変化してしまい、神として大切にされるというストーリーと信仰のグロテスクさを感じさせる物語を、中国から日本へのルーツを辿りながら、自身で想像し再構築したオシラサマの姿を表現した。

獅子野あんころ(寺井果音)

担当教員より

寺井果音のアトリエでの制作は、切り刻まれた段ボールが散乱し分厚いスタイロフォームにノコギリを淡々と引く姿が思い浮かぶ。平面作品が立体的になるのは今回が初めてではなく、以前から画面上にレリーフの様に盛り上がる制作を試み、立体感を強調させながら張りぼての様に突起させることにこだわっていた様だ。
今回の卒業制作の展示空間には、闇を湛えた個室の空間に馬の様な人体でも有る様な、得体の知れない何かが佇んでいる。わずかに一つの裸電球のほのかな光の中では、その対象物を明確に認識することはできない。現代のホワイトキューブに於いても闇を意識的に作る作家はいるが、日本古来の美意識でもある陰翳礼讃も然り、洞窟壁画にまで遡らずとも陰翳に映える作品制作は馴染みがある。見えにくい眼の前には様々な生々しい気配がうごめいている様で、闇の中で静かに鎮座する物体の制作背景にはローカルな民間伝説の裏付けがあることも作者から聞いているが、歴史ある場所がきっかけとなっての作品を生み出す方法は、新たな制作のための根拠に充分なり得るのではなかろうか。

日本画学科教授 間島秀徳