葛原菜乃

KUZUHARA Nano

テーブルの記憶
Memory of the Table

インスタレーション|布、レース、ビーズ、木
H1000 × W900 × D1800mm

作者より

食卓は、誰もが日々囲む普遍的な場。
そこには、言葉にできない想いや記憶が静かに交差している。

人は、心の奥にある傷や秘密をそっと隠しながら、
無意識の優しさで心地よい空間を織り上げる。

その場に生まれるつながりは、
過去と現在、そして未来を結ぶ見えない糸となり、
私たちの記憶を紡ぎ続ける。

食卓は、ただ食事をする場ではない。
そこには、交わした言葉も、飲み込まれた言葉も、
沈黙に溶け込む感情さえも存在している。

この作品は、食卓が持つ目に見えないつながりを可視化し、
人と人との記憶を静かに編み上げる。

食卓に宿る温もりと物語に、そっと触れてほしい。

葛原菜乃

担当教員より

一人で食事を済ませる孤食の広がりは、日本の社会的課題となっている。食事は単なる栄養摂取の行為にとどまらず、人間関係や社会とのつながりを形成する重要な要素である。食事の場で交わされる会話や共に過ごす時間は、言葉にできない感情も含めたコミュニケーションの記憶を刻む。
ただし、食卓でのコミュニケーションには、気まずさ、痛み、交渉、駆け引きといった緊張感や苦痛を伴う場合もある。葛原菜乃は、こうした心の機微を表現するため、食卓テーブルの下に糸の「もつれ」を作り出した。「もつれ」とは、感情や人間関係、交渉が錯綜し、複雑化する際に用いられる比喩である。葛原は、食卓のコミュニケーションに含まれる複雑性やアンビバレンツな感情を、テーブルクロスの下に半ば隠しながら提示することで、美的なものへと昇華させることに成功している。

クリエイティブイノベーション学科准教授 石川卓磨