井手くるみ

Ide Kurumi

毒の沼地
The poisonous swamp

カンヴァス、油絵具
Canvas, oil paint
H970 × W1303mm

無題
No title

カンヴァス、油絵具
Canvas, oil paint
H910 × W1167mm

作者より

目が覚めない状態は目が覚めて初めて自覚できます。中央に点があるとして、目に見える横だけではなく精神の縦、斜めも開拓できたらいいと思います。

井手くるみ

担当教員より

何とも不思議な絵である。ひとつの絵には裸に近い人物が描かれ、その顔や四肢がまわりの景色にとけ込むように消えかけている。それはモデルの人間でも、見た人誰かでもない。そこにある木も描きかけなのか、壊れているのかわからない。一方の羊の絵もまた同様につくりかけのようだ。だが一体これは誰がつくろうとしているのか?
ここで言えるのは、人も羊もつくりかけか、亡き者かわからないが、ただそこにあって存在がむきだしになっている、ということだ。それを孤独感とか、作者の頭のなかのイメージということもできるが、何よりも絵のなかに人、羊が成立していることが、この場合奇跡と言ってもよく、それは私たちがこの土地に生まれ住んで、存在を意識する時の共通した感情を呼び覚まし、また作者にとっての、ここまでならなんとか絵でできるといった切迫感の現れともなっている。私たちはかろうじて存在しているものを、今見ているのだ。そして作者と一緒になってそれが何なのか突き止めようとする。絵とはそのようなものなのだろう。

油絵学科教授 長沢秀之