菅野由紀

Kanno Yuki

繋ぐもの
unite

ビデオインスタレーション|映像、ミクストメディア
Video installation art | Video, mixed media
サイズ可変

映像
Video | 9min45sec
9分45秒

作者より

今あなたが観ている世界は、慈愛に満ちた素敵な場所でしょう。
そしてとても残酷で哀しい場所でしょう。
あなたから離れた場所で今、何が起こっているのか、
私が観ている世界、経験している事柄について思考を巡らせていただけたら幸いです。

菅野由紀

担当教員より

油絵学科の学生であり同時に看護師でもある作者による作品「繋ぐもの」は、多くの鑑賞者に特別な感情を呼び起こすだろう。
作者が担当した高齢の入院患者が、部屋の移動を拒んだという些細な出来事が作品の起点である。「この空の景色が見える部屋にいたい」というささやかな想いは、彼女の老いや死への漠然とした不安と重なる。正面の壁には病院の日常や高速で移り変わる空の景色が映し出され、天井に吊られた無数の点滴パックのチューブからは、床の観葉植物や空のトレーに静かに水が滴っている。そして不安定に漂う画面が病院の開かれたロビーのような場所に出たとき、この空間にあるのと全く同じ無数の点滴パックが吊られた劇的な光景が現れる。しかしそこでは激しく滴り落ちる水は床に垂れ流されたままである。突然突きつけられた残酷な事実の前で、それでもそこに留まり繋がろうとする透明な水に、私たちは「希望」を見出すことができるだろうか。おそらくそこには甘い感傷など入る余地のない看護師の現実があり、それでも表現者としてそこに立ち、語り得ぬものに目を凝らす作者の姿がある。

油絵学科教授 袴田京太朗