松井暢也

Matsui Nobuya

瑰麗
Kairei

クラフト紙、パステル
Kraft paper, pastel
H3500 × W8200mm

作者より

去年の11月ごろ、富山県にある立川連峰に登り、テントを張って寝泊まりしてきました。冬に差し掛かるころの山上は、決して快適とは言えない環境であり、非常に厳しいものでした。夜は寒さによって体が縮こまっているせいなのか、いつも以上に空は高く、山は大きく見え、人の小ささを体感することができました。それらの体験が絵の中に生きています。

松井暢也

担当教員より

松井の使用する画材や描法は至って単純なものだ。基底材はクラフト紙、描画材は木炭、黒のコンテといったものであり描法も特別なものではない。しかし、その表現は単純さゆえに強い感覚と感情を内包させている。一方で作品をどのような空間に提示するのかといった点においては極めて特異な方法をとっている。松井は作品をニュートラルな壁面に展示しようなどとは考えていない。クラフト紙の柔らかさゆえに、描かれたものは公共の建物の壁面に、時に共調し時に反発しながら同化してゆく。描かれた山や木々は、公共の空間を侵食するように、非日常的な「場」に変質させるのである。松井の描く巨大な風景は、まるで蠢く生きものが山河に変容したように思える。絵画空間だけでは満たされない欲望は、絵画そのものを生きものにして、公共の空間へはみ出てゆこうとするのだ。荒々しい野生が人工の只中で産声を上げる。松井の本質的な欲望は空間への問いかけであり生々しい「場」の顕現なのだろう。

油絵学科教授 樺山祐和