坂本千尋

Sakamoto Chihiro

「さかもと ちひろ」
“Chihiro Sakamoto”

着物|正絹、西陣織、布|型染め、友禅染め
Kimono | Silk, Nishijin-ori, cloth | Stencil dyeing, Yuzen dyeing
H1600 × W1800 × D700mm ×3点

作者より

着物にはメッセージとストーリーがあり、それゆえに物語を身に纏うものという特殊なメディアである。物語を綴る事は「織る」とも表現できる。これらの作品は、私の人生を織り綴ったもの達である。
幼少期から着物が身近な環境で育ってきた私は、着物を美しく特別なものとして認識してきた。それは凛々しくも儚く繊細な、しかし力強い美である。ひとつひとつの紋様に意味がありそれらによってメッセージやストーリーが産まれ、物語が語られてゆく。
これは、私が生涯感じてきた感情、体験、思い出等によって織り成され、自分自身のアイデンティティや存在意義となり得るものを着物を以って表現したものである。
たくさんの私の想いや物語が着物に描かれ、観た者達に訴え、語りかけているのだ。ここには私の人生が描かれている。

坂本千尋

担当教員より

坂本さんは病を得て卒業年次に2年間の休学を余儀なくされた。彼女はその間も3年次から続けていた織物の紋様の研究を地道に続け、また自ら紋様のデザインを行ってきた。彼女にとって幼い頃から身近な着物は詩(うた)のように語りかけ、読み取られるメッセージの装置であった。本作はその集大成として彼女自身の人生を振り返り、生まれた頃、病を得て苦しんだ時期、そして未来を見据える現在の三つの視点から制作された着物と帯である。彼女はこれらを長い時間をかけて自分で型を作り、染め、織り、縫い上げた。まさに生きることと作ることが一つになった美しい作品ができた。

視覚伝達デザイン学科教授 寺山祐策