神田つぐみ

KANDA Tsugumi

風の造形・凧揚げ考
Wind modeling, Thoughts about kite flying

本|紙、凧糸、ヒノキ材、竹
Book | Paper, kite thread, cypress, bamboo
H515 × W364mm(174ページ)
パネル|H2184 × W3090mm

作者より

正月に、久しぶりに凧揚げをした。すぐに飽きるだろうと高を括っていたのだが、始めてみると時間を忘れて、空とそれを背景に漂う凧を、ぼーっと見上げていた。自分の中のどこにも属さない不思議な感覚だった。そして、風に恵まれ、凧が浮かび、みるみる高く上昇していく高揚感と爽快さは格別であった。
私がおこなったのは「遊戯的凧揚げ」だ。しかし凧は古代から、漁具や戦具、神具、玩具など様々な目的で使われていた。歴史や現在も行われる凧揚げ行事について調べると、日本には「儀式的凧揚げ」があることがわかった。この制作では、凧の歴史、日本全国の分布やその造形の奇天烈さに好奇心を刺激されつつ、凧揚げの不思議な感覚から、人はなぜ凧を揚げるのかという根本的な疑問のもと、調査を進め、一冊の本にまとめた。

神田つぐみ

担当教員より

日本でもほとんど類を見ない「凧」の百科全書ともいうべき研究書でありビジュアルブックである。造本仕様は、凧糸を使用した「凧文字綴じ」、郷里新潟の和紙を用いた題箋、形態と構造を視覚化した表紙と見返しのデザインなど、その行き届いた気配りと目配りは言い出せばきりがない。内容は、あらゆる文献を調査した結果としての日本全国の凧地図、歴史、素材、製作工程・方法、揚げられる時期・祭事、凧の視覚言語と意味など、およそ凧に関して考えられる事項がずらりと並ぶ。またコロナ禍にあって実現させた各地の凧工房への取材・インタビューといった調査。そして神田自らが繰り返した凧作りと凧揚げの体験。これらが大胆で精緻なレイアウトで次から次へと展開され、見る者・読む者を凧のグラフィック・ワールドへと誘うのである。

視覚伝達デザイン学科教授 白井敬尚