新谷瑛里子

SHINTANI Eriko

ヴェネツィア派ジョルジョーネの雲
Cloud of The Venetian School Giorgione

論文|146ページ(35,084字)

作者より

画家は、常に動き続け形を留めない雲を、静止した絵画にいかに描くのか—とりわけ、絵画における規則が厳格であったルネサンス期の画家は、雲をどのように見て、どのように描いたのだろうか。
本論文で取り上げたジョルジョーネは、ルネサンス期におけるヴェネツィア派に位置づき、写実性と牧歌的世界観をその作品において両立させた画家である。ヴェネツィア派の伝統のなかに、詩情溢れる独自性を織り込んだジョルジョーネが描く雲は、運動するものと静止するもの両者の特徴も持つが、どちらにも傾かないものであると感じられる。彼による雲の描写を筆致・色彩・陰影で分析することは、雲のような不明瞭な対象を画家がどのように描くか、また時代様式と自身の関心を画家はどのように融合させるか、という問いに答えることにつながると考えられる。

新谷瑛里子

担当教員より

本論文は16世紀イタリアのヴェネツィア派の画家ジョルジョーネの雲の描写を分析・研究したものである。雲の描写は絵画の背景の一部であるが、その描写法や仕上がり具合は当時の時代様式を踏襲しながらも画家独自の創意工夫により表現されている。雲の構図、筆致、色彩、陰影、流動性などの造形要素が丹念に図解も入れて分析され、ジョルジョーネ作品における全体と部分の関係性やダイナミズムが見事に記述された優れた論文である。

芸術文化学科教授 是枝開