黄麗穎

HUANG Liying

彼のこと、今でも知らない
I Still Do Not Know Him

インスタレーション|インクジェットプリント、布プリント、アルミ複合板、角材、布、プロジェクター
サイズ可変
写真集|H254 × W203mm

作者より

中国の一人っ子政策下、母が私より先に産んだ子は死産となった。民間伝承によると、胎内で死んだ子は仏の眷属で、前世の因果から一時的な縁で両親と繋がっていたという。母はそれを信じて、定期的に仏様にお線香をあげて祈る。子供の頃、兄弟が存在すると想像したが、今考えると、彼が無事に生まれたら、私はこの世にはいないのだろう。2016年の政策変更で、一人っ子の時代が幕を閉じた。私は過去と現在のぶつかり合うから生じる「存在」と「不在」の間に生み出すイメージから、「兄」の存在を描き出し、社会的・制度的環境に隠された時代の傷跡を表す。

黄麗穎

担当教員より

作者は、ある日死産で生まれてこなかった兄のことを知らされ、一人っ子政策下の自分は、兄が生まれていたら自身の存在がなかったことに気づきます。現在では3人目の出産も認められていますが、大きく変化する中国の政治体制や社会の中で翻弄される人々、そして、故郷を流れる何も変わらない長江の流れや人々の祈り、様々な物語とそれぞれの時間の流れが写真の中で交錯します。個人と国家、変わるものと変わらないもの、生と死といった対極のことが入り混じったスケールの大きい作品です。

映像学科客員教授 菅沼比呂志