佐川ソフィ

SAGAWA Sophie

Dance of Duck Meat

インスタレーション
H2500 × W1820 × D1820mm

作者より

食べる目的の狩猟には「肉から弾丸を抜く」という工程が存在する。2024年2月、オランダのビルトホーフェンで鴨のハンティングが趣味の親戚の家に滞在する機会があり、私はその行為を目撃した。それは磁石の塊を肉に当て、肉から弾丸を勢いよく取り出すというものだった。肉から弾丸が抜けるのは目視できないほどのスピードだが、弾丸が磁石に到達する瞬間は鋭い音が部屋に響き、その衝撃で弾丸は数秒細かく振動する。狩猟は動物に弾丸を打ち込んで殺しているため食べる前にそれを抜くのは当然なのだが、今までそのような工程を想像したことがなかったので私は衝撃を受けた。自然物と人工物の特徴が入り混じる異様な空間、普段の私たちの生活では想像の及ばない範囲に異質とも捉えられる行為が潜んでいることを表現したくてこの作品を制作した。

佐川ソフィ

担当教員より

かつての社会では死が身近に存在していたが、現代では敬遠されタブー視される、と解剖学者の養老孟司氏は著書『死の壁』で指摘する。作者の作品制作の契機となった日常から隔離された「死」を見つめる体験は、私たちが自然の一部であるという本来の認識を取り戻す。狩られた鴨から取り出された弾丸を模したオブジェの震えは、作者の動揺であると同時に、死を直視する覚悟とも言える。それは「生」へのエネルギーをも示唆している。

デザイン情報学科准教授 大石啓明