塗師瑛

Nushi Akira

夏の夜
Summer night

油絵具、キャンバス
Oil paint, canvas
H1940 × W1303mm

一家団欒
Family gathering

油絵具、キャンバス
Oil paint, canvas
H1940 × W2590mm

作者より

2年前、僕は精神を病んでいた。
不安感や強迫観念から食事を制限していた。
体重は大学入学時から大きく落ちてしまい医者からも危険信号を出された。
この当時、家族にも大変迷惑をかけてしまった。
全員で一家団欒をとることを頭では望んでいた。
しかし心ではできなかった。
一家団欒は当時の自分にとって願いだったのである。

塗師瑛

担当教員より

素朴なちぎり絵のようだが、本作は堅牢な油彩画だ。作者はマスキングテープを一定の幅でちぎり、この大きな画面を完全に埋め尽くした後、ひとつひとつテープを剥がしながら、キャンバスへの窓のように開けられた隙間に、熟考の末の一手として絵の具を置いていく。
並外れた仕事量と集中を強いる作業を積み重ねて、画面は色彩の鮮度を保ちつつ、モザイク画や点描画のような視覚的混色を可能にした。しかし本作で扱われているものは、視覚効果の実験にとどまらない。
日本の典型を示す風景となった核家族の食卓だが、ここには団欒には程遠い、不穏な緊張感が満ちている。右下に座る作者はこのとき精神的な危機にあった。創作への不安がその根源だったが、そこから彼を救済したものは、自己分析の果てに編み出したオリジナルの画法と、そしてそれを駆使して描き切り、乗り越えたという体験ではなかったか。

油絵学科教授 諏訪敦