阿部一真

Abe Kazuma

scenes

キャンヴァス、油絵具
Canvas, oil paint
H1620 × W1303mm × 6点、H1620 × W1620mm × 1点

作者より

自分の日常風景を自らの身体的なリズム、自然と生まれる曲線を利用しながら描き出し、そこにどのような物語が内包されうるか確かめながら制作しました。
空間を以て自己を表現することを目指した結果、生活の上でそのようなタイミングが見つかればシャッターを切り、クロッキーを重ねました。意図せず生まれる有機的なラインが美しく思えました。

阿部一真

担当教員より

モチーフは阿部が日常生活をしている部屋である。部屋には様々な物が溢れている。それらは何の変哲もない日々の暮らしの過程で集まってきたものだ。物たちは何げなくそこにあるが、意味もなく無関係に在る訳ではない。それはそこに在る事の意味を確かに持っているように見える。人の生活によって集められたものたちは有機的なつながりを触手のように伸ばし、日常の時間は徐々に物たちを名の無いものに変身させる。人は物と特別な関係を結び、人という生き物の巣の空間を形づくるのである。
物は徐々にその日常的な外観を脱ぎ捨てるように歪んでゆく。歪みは少しずつ集まり大きな流れを形づくる。この歪みとそれによって作られる流れに阿部の感覚と感情が体現している。それは決して特別なものではない。日々、堆積した感覚が徐々に異形の何かへと変貌するのだ。世界のよそよそしさを突き放すのではなく、なんとか自身の内界で生かそうとし、世界と阿部とが画面の中で均衡をもつ時、世界はある湿度を持って立ち現われる。そして物たちはまるで生き物のようにそこに居る。日常の生活の表層に覆われた、もう一つの生々しいリアルが露になる時が来る。

油絵学科教授 樺山祐和