田上正敏

Tanoue Masatoshi

百着夜行
The night parade of one hundred living dolls

キャンヴァス、油絵具
Canvas, oil paint
H1908 × W7000mm

作者より

幼いころ、寝る前に必ず母が絵本を読んでくれた。読んでもらった絵本はどれも面白かったが、一冊だけ非常に怖いオバケが出てくる絵本があった。当時そのオバケが何よりも恐ろしく、感情の読めない巨大な目が非常に不気味に感じた。
その目にジッと観察されているようで、次第に増殖していく不安感が徐々に気持ちを焦らせた。

田上正敏

担当教員より

横7メートルの画面の中に大きな目のお化けたちが所狭しと跋扈(ばっこ)している。目線の先を追うと、片隅に消灯しようとする子供の後ろ姿が…。着想は子供のときの、なかなか眠らない自分に向かって両親が、何度もしてくれた怖い話だと聞いている。田上は今、何故そんな昔話を思い出してこんな大画面の絵にしたのだろう。美術には幻想絵画の歴史がある。例えば歌川国芳(1797-1865)は天保の改革を批判して、その圧政を土蜘蛛の妖怪に見立て、その被害者たちをこれも妖怪として描いて物議をかもしたと言う。靉光(1907-1946)の「目のある風景」は1938年、まさに第二次世界大戦前夜の不穏な空気を感じ取って描かれたと思われる傑作だが、これもお化けの絵と言えば言えるだろう。幻想絵画は夢や憧れをそのまま描いたものばかりではない。それらは時代や社会への恐怖や批判精神から生まれた、弱い立場の叫びや弱いゆえの皮肉的な内容のものが多くある。そのような観点で田上の描いた絵を観ると、この作品における陳腐なキャラクターも、劇画的過剰さも、彼を取り巻く薄っぺらな世間の目と言えるのかもしれない。圧倒的な描写力でリアルに描かれたそれらのお化けたち、それもこんな大画面でそれらを描く必要があったのは、現代における個人と社会の切実な相互関係を表現しているからに思えてならない。

油絵学科教授 水上泰財