Flatキャンヴァス、油絵具Canvas, oil paintH2273 × W1818mm、H1303 × W1620mm × 2点、H210 × W297mm
カンヴァスを一つの部屋に見立て、家具や天井や壁を再配置してみる。 そこには生活の中にある機能を持った道具とは別に、私たちの身体で感じることのできる「ある」存在が見えてこないだろうか。 「ある」存在は、絵の具のリズムや時間の交差が重なりあうことでようやく目の前に現れ、人はそれを再び身体で受けとることができる。 坂口佳奈
部屋などの室内と思われる空間が、勢いのある筆触で描かれている。手前に描かれている椅子やテーブルなどの具体的なものと、柱や台のような絵を構成するための構造物に見えるものが入り混じって、画面に複雑さを与えている。具体的なものをきっかけにして空間を把握しようとすると、筆触と絵の具の濃淡、固有色をほとんど感じさせないモノトーンの色彩によって、ひとつひとつのものは溶け合って、焦点が定まりそうで定まらない。視線は少し捻じれているように感じる空間を、手前から奥へ、上下、左右へとさまよい、心地よい揺らぎの中でいつしか絵の中に入り込んでいる。部屋は人が住むことで機能し、そこで生活する時間の中で豊かさは育まれると言う坂口は、その構造が自分の作品に近いと感じていると言う。絵を描くことは、絵の具という物質を使い、描くという行為によって、目に見えないものを可視化することだと思うが、彼女にとって絵を描くということは、生きていく時間の中で、時に疑いながら、生きているということを実感することなのだろう。絵に定着された揺らぎは、様々な思いの中での彼女自身の揺らぎであり、その揺らぎの幅が豊かさにつながるのだと思う。 油絵学科教授 小林孝亘
作者より
カンヴァスを一つの部屋に見立て、家具や天井や壁を再配置してみる。
そこには生活の中にある機能を持った道具とは別に、私たちの身体で感じることのできる「ある」存在が見えてこないだろうか。
「ある」存在は、絵の具のリズムや時間の交差が重なりあうことでようやく目の前に現れ、人はそれを再び身体で受けとることができる。
坂口佳奈
担当教員より
部屋などの室内と思われる空間が、勢いのある筆触で描かれている。手前に描かれている椅子やテーブルなどの具体的なものと、柱や台のような絵を構成するための構造物に見えるものが入り混じって、画面に複雑さを与えている。具体的なものをきっかけにして空間を把握しようとすると、筆触と絵の具の濃淡、固有色をほとんど感じさせないモノトーンの色彩によって、ひとつひとつのものは溶け合って、焦点が定まりそうで定まらない。視線は少し捻じれているように感じる空間を、手前から奥へ、上下、左右へとさまよい、心地よい揺らぎの中でいつしか絵の中に入り込んでいる。部屋は人が住むことで機能し、そこで生活する時間の中で豊かさは育まれると言う坂口は、その構造が自分の作品に近いと感じていると言う。絵を描くことは、絵の具という物質を使い、描くという行為によって、目に見えないものを可視化することだと思うが、彼女にとって絵を描くということは、生きていく時間の中で、時に疑いながら、生きているということを実感することなのだろう。絵に定着された揺らぎは、様々な思いの中での彼女自身の揺らぎであり、その揺らぎの幅が豊かさにつながるのだと思う。
油絵学科教授 小林孝亘