田野勝晴

TANO Katsuharu

ナイフ
knife

綿布、油彩、色鉛筆
Cotton, oil paint, colored pencil
H1620 × W2240mm

縫光
sew light

綿布、油彩、水性アルキド樹脂絵具、積層フィルム
Cotton, oil paint, water-based alkyd resin colors, laminated film
H1850 × W2460mm

風の影
shadow of wind

綿布、油彩
Cotton, oil paint
H1850 × W1850mm

作者より

風に揺れる木々の下でざわめく木漏れ日や、夕暮れ時
何処からか部屋の中に差し込んできた西日を見ていると、そこに手をかざしてみたくなる。
柔く、暖かく、そして少し寂しい感じのする光が指先で反射する。
そんな時いつも、不安と安心が入り混じったまま何処までも穏やかな憂鬱の中に溶けていくような気持ちになる。

吹雪が去った次の日の朝、凍りついた空気と真新しい結晶が日差しを乱反射し
葉を落とした木々は純白を纏う。
目も開けられぬほどの燦光は、閉じられた瞼さえも透過して体を覆っていく。
死への床は冬に向かい、壊れぬよう優しく握る手はいつも不思議と温かかった。

寂寥と安堵、光と陰。
記憶の破片は色となり形をつくり、言葉を紡ぐ。
存在すること、消えること、美しいということ。
みえないけれど記憶の中に、大事なものはずっとここにあった。

田野勝晴

担当教員より

失ってはじめて、その重要性に気づくことがあるように、例えば大切な人の不在によって、逆説的に照らし出されるものも在るのかもしれない。田野の絵画は、人が触れ合うことで織りなされる印象の残渣を、木漏れ日にも似た心象的な光に変換して、画面に定着することで成されている。
音楽を良質な機器で再生すると、調和を保ちながらも楽器それぞれの鳴りを分離させ聴き分けることができるが、彼の絵画にもそのような解像感が認められる。描き始めのような色彩の鮮度を保ちながら、それを鑑賞者に光として知覚させるために、筆の軌跡には細心の注意がはらわれ、同時に複雑な構成を支えてもいる。

油絵学科教授 諏訪敦