ソウ キンモン

TSANG Kamman

網羅
The spying chain

平面|パネル、油絵具
H2270 × W3600mm

立体|石粉粘土
H500 × W1400 × D1000mm

作者より

現代社会で、情報収集のネットワークが日々に蔓延っており、中に潜む危険性はよく気づかれておらず、私たちは徐々にこの巨大なネットワークに巻き込まれている。

私たちが他人を見ていると同時に、誰かが私たちを見ており、皆は観察者と観察される者の役を切り替えている。この二つの役割は自然界の食物連鎖における捕食者と被食者の関係と同じだと思われるため、シュールな森をモチーフとして扱い、「情報監視の連鎖」というものを可視化した。

ソウ キンモン

担当教員より

窓のない壁に囲まれた部屋の中に、ところ狭しと樹木が繁茂し、広がる枝先は行き場を失っているように見える。近年の禁忌である密閉、密集、密接の空間が奥へ奥へと果てなく続き、擬人化された樹木の造形は、見るものに何かを訴えかけるかのようにもがいている。白黒で息苦しくなるほど丹念に描きこまれた絵画空間は、色がないゆえ、より不気味な印象を見るものに与えるのである。作者の描く力と描くことの絵の強さを十分に感じさせる秀作である。
香港からの留学生である作者は、「近年における情報網の閉塞感を表現した」とさらりと言うが、私たちには想像できないくらい深い実在への問いかけがあって生まれ出た作品ではないだろうか。付属したインスタレーションとして絵と数メートル離れたところでは、傍観者のような切り株が、描かれたものを眺めている。幻想絵画は、時代ないし個性の、ある種の抑圧の捌け口として現れるものが多い。そうだとすると、明らかにそれと思えるこの作品は、やはりコロナの抑圧からの反動か、それとも祖国の現状に対する自由への渇望なのか、何れにせよ作者の痛々しい生の叫びのようなものを感じる作品である。

油絵学科教授 水上泰財