中村夏野

NAKAMURA Kano

Untitled

インスタレーション|布、紙、パステル、インクジェットプリント
H5000 × W9600 × D4500mm

作者より

「世界」から抜け出せ
「歴史」から抜け出せ
「ルール」から抜け出せ
「競争」から抜け出せ
「価値」から抜け出せ
「意味」から抜け出せ
「具体的なもの」から抜け出せ
彼らに殺される前に

全て彼らのものだから

中村夏野

担当教員より

一つの形や色を少しずつ変えることで、音楽を奏でるように多様な形態を作り出す中村は常に2つの方法で作品を制作してきた。1つはiPadを使い描いた作品、もう1つはパステルを使い直接紙に描いた作品、常にデジタルとアナログの間で制作を続けてきた。
iPadで制作された作品は同じものを複数プリントすることも可能であるし、サイズを自由に変化させることも可能である。それが意味するのは、オリジナルはiPadの中であり、それに触れることは出来ないということであろう。一方、紙にパステルで直に描かれる作品はオリジナルが剥き出しの状態である。その乖離した世界に彼女は橋を掛けるように制作を続けてきた。卒業制作展に於いては、紙にiPadでプリントしたものとパステルで描かれたものが混合された状態で壁の隅から中心へ向かって壁面と床に相応するように整然と展示されていた。それはどれがiPadで描いたものか、パステルで描かれたものか、直ぐには見分けのつかないほど近似化されたものであった。
また展示空間中央には軽く薄い透明感のあるシフォン生地にiPadで制作したパターンをプリントし、高さ280cm奥行き108cm幅500cmの巨大な箱型のトンネルのような立体作品が展示されていた。その作品は素材の薄さと透明感から物質性が希薄であり、どのようにそこに存在しているのか、マテリアルは何であるのか近づかないと分からないほどである。その立体作品と壁と床に展示されている紙の作品を同時に視覚に入れると、それらの作品が展示空間の中で呼応しており、空間全体が左右にゆっくりとスライドし拡張していくような印象を与えていた。
中村は同じ図形が繰り返されることは、単なるオリジナルのコピーではなく、それらが一つの纏りになることで別のオリジナルな存在になり得ること、また同じ図形であってもスケールや色彩の変化、展示の仕方によって全く異なる印象を与える作品になることを、制作を続けていく中で理解し、それらを駆使することでデジタル(コピー)とアナログ(オリジナル)の差異を埋めながら時空を歪ませるような空間を創りだしていた。

油絵学科教授 丸山直文