佐藤駿乃輔

SATO Shunnosuke

反芻する思考放棄状況
A ruminant stop thinking

インスタレーション|キャンバス、油絵具、セロテープ、油性ペン、アクリル紐、ビス
サイズ可変

作者より

人は常に思考しながら生きている。
しかし自分には思考停止した感覚になる時がある。
ふとした時に部屋の眺めに気をとられ、思考が停止した状況に陥る。
その瞬間の光景をキャンバスに描き起こす。
壁面上に家の間取りと対応させて配置する。
時間を記録する。
行為を通して思考停止していた状況を反芻する。

佐藤駿乃輔

担当教員より

佐藤は自身の制作について「思考停止の状態の反芻」と表現する。ここで彼が言う思考停止の状態とは彼にとって決してネガティブなものではなく、むしろ心地よく、重要な時間ですらある。想像するにそれは無意識と意識の境界で何かが生まれ出る予兆を静かに待つ、そんな時間ではないか。
佐藤は彼にとってごくごく日常的な風景の断片、自宅マンションの廊下や階段、整えられていない室内、ベランダで定点観測されたような洗濯物たち…。そんななんでもない一場面を写真に撮り、それをキャンバス上に描き記す。そしてそれら日記のように描き綴られたいくつもの小さな絵を、方位記号を添えた部屋の見取り図のように慎重に壁面に配置する。1枚1枚の横に記された日付は写真を撮影した日のそれであり、描いた期間であり、それを展示した日付、さらには将来再びそれらを観るであろう空白の日付である。それぞれの絵から伝わってくるのは強い感動や主張ではなく、ただただ無心に目の前の写真を描き写す作業にも似た何かだ。まるで一筆一筆、何かを記録し確かめているように。彼にとって撮る時間、描く時間、並べる時間、観る時間、それらはすべて彼が日常の中で感じる不可解な「思考停止」の状態を再び思い起こし、体感すること、つまり「反芻」することである。それは何かを生み出す瞬間という大きな謎についての謎解きの行為でもあり、いみじくも彼の言う「思考停止」について深く思考する作業と言えるのかもしれない。

油絵学科教授 小尾修