二俣宏歌

Futamata Hiroka

物語るもの
A storyteller

着物|染色、刺繍|絹布、植物染料、糸、スチレンボード
Kimono|Dyeing, embroidery|Silk cloth, natural dyes, thread, styrene board
H1670 × W1640mm

着物地
Kimono cloth
H250 × W250mm × 40点

作者より

私の家には祖父母が作った庭がある。今は母が手入れをし、父が剪定をし、私が愛でるなどしている庭だ。そんな愛する庭の今の姿を記録したいと考え、本作品を制作した。
庭は家を映す鏡だと思う。植物を植える人がいて、手入れをする人がいて、咲いた花を家に飾る人がいる。新しい家族が増え、新しい植物が植えられ、そうして受け継がれていく。家と共にあり、家人と共に時を重ねる。庭は家族の物語を映し出しているのではないだろうか。この、物語という点で庭と着物は共通している。着物の模様には一つ一つ意味があり、着る人の思いや祈りが込められている。親から子に贈られ、また受け継がれていく。着物とは、家族の愛情や歴史という情報を物語る衣服なのだ。だから私は家の庭を着物に記録することにした。私の家の物語を、物語るものとして。
祖父は3年前に亡くなり、祖母も(長生きしてほしいが)いつか亡くなるだろう。両親は年老い、兄夫婦には家族が増えることだろう。私は…どうなるか分からないが、そうして形を変えて行く家族の姿は、どんな形であれこの庭に映え咲くのだろう。それを見て私はやはり、美しいと思うに違いない。

二俣宏歌

担当教員より

家族の記憶といった概念的なテーマを、着物の模様によって表現しようとした意欲的な作品だ。描かれた山野草は、故人となった祖父を象徴すると同時に家族の物語を象徴している。二俣さんは3年生の頃から着物に描かれた模様の背後に込められた思いを読み解くことに夢中になっていた。卒業制作ではその経験を基に、逆に模様を通して思いを込める構成を試みた。丁寧に記録し構成しそして美しい色彩で庭の山野草を描いた。個人的な思いをデザインの表現にまで追い込めるほどの造形力によって、伝統的な技術による表現とは異なる表現が見えてきている。美しく説得力を有する作品に仕上がっている。

視覚伝達デザイン学科教授 新島実