木村奈央

KIMURA Nao

月とすっぽん

インスタレーション|スチロフォーム、アクリル塗料、プロジェクター
サイズ可変
映像|5分51秒

作者より

この作品では、日本のことわざである「月とすっぽん」を用いて、「自分を他者と比較することなく、自分自身の良さを見つめ直すこと」の大切さを表現しています。3つの天体とも数多くの星の中でのひとつであり、恒星であれ惑星であれ衛星であろうと、大きさやかたちに関わらず、すべての星(人)はキラキラ輝いている存在であり、星(人)は全て美しいものです。

木村奈央

担当教員より

木村奈央は、2年次に選択した授業がきっかけでアニメーション作品を作るようになった。元々、短編アニメーションを観ることが好きで、物語を考えたり立体を作ったりすることにも興味があった彼女にとって、それは伝えたいことを堅苦しくなく表現できる手段だったという。

卒業制作では「月とスッポン」というタイトルの約5分間のアニメーションとそこに登場するキャラクターの立体で空間を構成した。アニメーションは、地球、太陽、月とスッポンの4つのキャラクターが擬人化(なぜかスッポンはそのままだが)されて登場する。主に月の視点で展開していく物語は、自らのコンプレックスから他者との比較によって自己否定していた主人公が、いくつかのエピソードを経て自身の価値に気付くというもので、喪失と再生の物語としてみることができる。
平面的に正面からの視点で描かれたカットが多用されたシーンは、台詞などの音が一切ない。音がないことで観る側の想像力が働き自由な解釈を促す一方で、意図しない方向に読み取られる恐れもあると思うが、テンポよく展開する画面を観ていると、自然に身体の内に音が広がるのを感じる。キャラクター達が動きまわる様子はほのぼのとしていて、気がつくと彼女の世界に入り込んでいる。後半の、月が石につまずき、持っていた箱から林檎がこぼれ落ちて太陽の元に転がり、太陽がそれを受け取るという一連のシーンだけ視点が変わる。このシーンは物語が収束するきっかけとなるが、それ以上にフィクションでファンタジーだからこそ感じることのできるリアルさを感じた。

性別、容姿や関係性などのキャラクター造形を含めた物語の構成に改善の余地はあるものの、それらはこの先の木村自身の経験や思考の積み重ねによって、意識し過ぎなくとも深まってくると思う。その変化に伴い、わかりやすくて軽みがあって、しかし心のより奥深いところに届く作品が生まれることを期待している。

油絵学科教授 小林孝亘