川崎愛実

作者より

Hiはオリジナルのお化けだ。
人間は知覚したものを自分に馴染みのあるものに基づいて認識する。その結果、ときにそこに存在しないものを見出すことがある。私はお化けをそうした認知の不具合の産物としてとらえている。
Hiは形も動きも機能や構造上の必然性に迫られてこうなっているのではなく、意味も原因もなくこうしたものとして存在している。
意味も原因もないHiを見た人に、おのずと生き物らしさを見出させたりさせるような、本当はここにはない何かを見出す感覚を喚起させる力を持たせたいと考え制作した。

川崎愛実

担当教員より

人間と家具との関係性から人間の知覚に焦点をあて、調査、研究、分析、視覚化の作業を踏まえ生まれた造形は簡素ながらも愛らしいものとなった。作者はこのテーマのもと非常に長い時間をかけ様々な表現方法を手を動かしながら試してきた。この作品を前に、見る者は、作者の意図通り、生き物らしさをこの不規則な動きの中に意味を見出そうとしてしまう。存在しない何かを見出す感覚を喚起したいという作者の企み通りである。時代性を浮かび上がらせるテーマであるとも言え、非常に現代的な作品とも捉えられる。フォルムとしては軽く華奢な構造体のみのシンプルな造形で、空間に美しく溶け込んでいる。この作品の裏に潜むテーマ設定の独自性と表現方法を高く評価したい。

工芸工業デザイン学科教授　山中一宏