梶田ひかる

KAJITA Hikaru

手の届かないオレンジジュース

インスタレーション|アクリル板、エポキシ樹脂、シール、ほか
H5200 × W9600 × D6600mm

作者より

スーパーの陳列棚に並ぶ紙パックのオレンジジュースを取ろうと手を伸ばすと、指先は紙パックではなく見えない壁にぶつかった。手に取ろうとしていたオレンジジュースは、鏡に映った手前の商品の反射だった。そこには確かにオレンジジュースが見えているのに、実際には存在していない。
 
私たちは普段、目の前に見えているものを確かに存在すると信じて疑わない。しかしその確信は時として揺らぎ、「見える世界」が必ずしも「在る世界」と一致しない。

梶田ひかる

担当教員より

感覚と知覚のズレに着想を得た、作者の飽くなき探究心が結実した作品。2色のドットをモチーフに、反射/透過する素材を介した光学的操作を仕掛けることで、普段は意識することのない視覚の特性を顕在化させた。キューブ型の什器は、作品を観るアングルや順路を限定することなく、来場者を能動的な鑑賞へと導く。当初、キューブの素材は展示室の床との連続性を考慮し、手間のかかるモルタル仕上げだった。しかしすべてが揃った段階で、作者はその物質性への違和感から、塗装によるシンプルな仕様で一から作り直した。提出直前の果敢な取り組みが功を奏し、抽象性がより際立つ清々しい空間が生まれた。特殊な形状のレンズは、3Dプリンターによる原型の出力、シリコーンによる型取り、樹脂の注型によって制作。最後は手作業による仕上げが要となった。その他、マイコンによるモーター制御など、ゼミの演習を積極的に取り入れ、独自のスキルアップによって本作は具現化した。

空間演出デザイン学科教授 鈴木康広