長谷川恒明

HASEGAWA Komei

松井冬子が解放を試みる痛覚の孤独性
—〈痛み〉の視覚化に潜むフラストレーションとカタルシス—

論文|100ページ(39,074字)

作者より

本研究では、他者と共有できない孤独な感覚である「痛覚」の視覚化を試みる画家・松井冬子の作品を対象とし、松井が表わす<痛み>がどのような造形によって特徴付けられているのかを考察した。
また、「<痛み>という人間にとって不快な現象を表現しているにもかかわらず、松井の作品が鑑賞に堪え得るのは、実は<痛み>とは別の何かが潜んでいるからではないか?」との問題意識から、その「<痛み>とは別の何か」の言語化を試みた。

長谷川恒明

担当教員より

作品に顕著に見られる「痛み」の表現の特徴を、松井本人の言説と重ね合わせながら分析し、鑑賞者は痛みをどのように受け止め、何を感じ取ったのかを論じた意欲作。痛みを描く背景についてはこれまでも多く語られてきたが、この論文では鑑賞者側の作品受容に焦点を当てたところに独自性がある。時間をかけて調査と分析を行ない、画家の言説にのみこまれることなく作品を見つめ、鑑賞者との関係性を鋭く考察した点を高く評価した。

造形学部 通信教育課程 芸術文化学科教授(文化支援コース)
田村裕