小河彩乃

OGAWA Ayano

さざ波からみている

布、寒冷紗、和紙、岩絵具、土、墨、箔、油性絵具、木板、小石
サイズ可変

作者より

さざ波のように 揺れ動く自分
そこからみている風景も 揺られながら形を変えている

常に不定形な風景で
記憶上に残っているもの(これまで見ていたものをぼんやりと思い出すか、わすれているかぐらい)
を重ねて浮かび上がったものが、自分を形づくり それらを通して見続けているのかもしれない

記憶上にあるもの はっきりと思い出せないときが多い
再現するためにあえて画質の悪いカメラで撮ってみた 
意外と鮮明に見えるためしっくりこなかった

プリンターで印刷をしたとき、インク不足で像の一部分だけしか印刷されなかった
なんとなく、記憶の残り具合と似た感じがした

小河彩乃

担当教員より

彼女の修了制作は、モノトーンを基調とした抽象表現で成り立つ風景画である。
かつて、彫刻家ジャコメッティは、自身の細長く小さな人物像の作品について尋ねられたとき
「私は人との別れのとき 道の彼方へ向かうその姿が 最後に細く小さくやがては見えなくなる瞬間 私は別れた人のことを最も愛おしく憶う」
と、語った。と、聞いたことがある。小河によって描かれた作品もまた、大切な筈だったかつての光景が、記憶の中から少しづつ欠落しやがては薄れ、そして断片的になってゆく様で。それが消えゆく瞬間の刹那さ。我々の内に在る自らにとっての大切な或る日の光景を懐かしく憶う瞬間がそこには表現されている様に思える。彼女は日本画材特有の墨、岩絵具、その上木炭などを実に絶妙に使いこなし、和紙を支持体とした温かみを持ちつつも“刹那さ”というものの彼女独自の繊細な表現を大画面へ遺そうと試みたのである。

日本画学科教授 岩田壮平