大塚澪音

作者より

この作品は、この世界のあらゆるものを描くべくつくりました。

美しい世界のなかで、夢を見る、歌う、喜び、怒り、哀しみ、楽しむ、起きる、寝る、走る、座る、頑張る、諦める、たたかう、つながる、開ける、閉じる、産まれる、殺される、生きたい、死にたい、始まり、終わる、地球はまわる。

この世界はどこを見たって素晴らしいと思っています。そんな気持ちを忘れてはいけないような気がしました。

大塚澪音

担当教員より

化繊の布をキャンバスとしてインクで絵を描く大塚の技法は独特で、私はこれまで、あまり見たことがない。おそらくその描画技法は、時とともに退色の危険を孕んでいるからだと思われるが、描き終わったばかりの色彩は美しく、柔らかな化繊布の質感も手伝って、実に繊細な表情を見せている。群像が戯れ、蠢いている、楽園の情景を描いたような作品である。
大塚の大作をみながら、楽園とは何なのだろうと考える。みんなが裸で、語り合い、動物と戯れ、思い思いの刹那の欲望に耽る。時間に束縛されたり、誰かに強要されたりしない、何の苦しみもない世界。それが偶然のにじみによる形の揺らぎや色彩の微妙な変化のせいで、実に危うい、曖昧なものだと思えるのである。戦争や紛争があちらこちらで起きている。自由を奪われ、行動が制限され、苦しみにもがいている若者たちがいる。こんな時代に楽園かよとも思うのであるが、芸術とは大昔から祈りの形でもあり、彼の描いた光と形の連なりに素直に感心した。願わくば、インクの脆さを克服し、彼自身の画業を含めて、その鮮度を長く持続させてもらいたいと思う。

油絵学科教授　水上泰財