リョウ ギョセイ

LIANG Yuqing

紀行文学の空間叙事研究—言葉と空間イメージの相互関係
A Study on Spatial Narratives in Travel Literature: The Interrelationship Between Language and Spatial Imagery


パネル|H1828 × W50000mm
論文|90ページ、40,000字
写真集|H420 × W297mm、78ページ(3冊)

作者より

田山花袋の『多摩川の上流』を読むと、まるで自分が彼とともに旅をしているかのような感覚に包まれる。
小金井から多摩川へと続く道のり、風に揺れる武蔵野の草木、そして移ろう空の色までもが、彼の言葉によって鮮やかに描き出されている。
私はこの文章に導かれるように、自分の中に浮かぶ風景をスケッチし、さらには実際にその場所を訪れた。そこで感じたのは、田山の言葉が単なる地理の記録にとどまらず、読者それぞれの心の中に新たな空間を生み出しているということ。
地図のように正確でありながら、物語のように情緒豊かな彼の文章は、私たちを過去と現在の多摩川へと誘う。展示では、そんな田山の空間叙述を、言葉とイメージの関係を通してひも解いている。

リョウ ギョセイ

担当教員より

本論は人々が空間を移動する際に内面に生じるイメージの記述方法を探る試みとして、明治~昭和初期にかけて活躍した文学者・田山花袋を研究対象としている。文学と地理学の知見を有する田山の足跡を丁寧に調査するだけでなく、1899年に記された「南船北馬」にあるテキスト「多摩川の上流」を対象とし、テキストの意味的な分類、読んだ時に想起されるイメージのスケッチ、当時の光景の調査、論者自身による踏査と記述等の複合的な研究を行い、認知地図として統合した。さらに田山による叙述を読んだ者の脳裏に生じる豊かな空間イメージを、C.S.パースの記号作用を通して明らかにしている。「言葉とイメージ」というヴィジュアル・コミュニケーション・デザインにおける重要な問題を正面から捉え、独自性の高い研究となったことを評価したい。

視覚伝達デザイン学科教授 中野豪雄