劉逸葳

LIU Yiwei

版の絵からグラフィックデザインの萌芽
―版画の諸相と山本鼎の美術活動をめぐって―

本|H157 × W248mm
年表|H2000 × W4000mm
ポスター|H420 × W594mm

作者より

元々、版画はタブローとして描かれた油絵に対して、芸術表現より複製技術として使われていた。19世紀以降、浮世絵の影響を受けた西洋の美術家は、自画自刻自摺で「表現としての版画」を模索し始めた。

デザインという概念が生まれていなかった当時、こうした版画復興の動きの中で、グラフィックデザインが芽生えたと言えるのではないか。この潮流にいち早く反映した山本鼎が提唱した「創作版画運動」は、日本近現代の美術史やグラフィックデザイン史の傍流としても重要な地位を占めていると考えられる。このような交錯する曖昧な流れを、「版」の諸相と山本鼎の美術活動をめぐって、再考してみた。

劉逸葳

担当教員より

本論文は版画家、山本鼎の活動に焦点を置きながらグラフィックデザイン史の文脈においても大変重要な人物であることを提示している。彼は19世紀末欧州におけるアールヌーボーの多様な展開、『ユーゲント』『パン』など活版、木口木版、石版などによる印刷物を通した、世紀末芸術表現の日本への影響を複製絵画としてのみならず、後のモダングラフィック・創作版画運動など複製メディア芸術(グラフィックアーツ)の大きな地殻変動において山本の活動が深く関与していることを詳細に論じている。視覚伝達デザイン史の文脈から近代グラフィックデザインの創生に関する新たな知見をもたらした優れた論考である。

視覚伝達デザイン学科教授 寺山祐策