竹内志織

TAKEUCHI Shiori

ありし日、

インスタレーション|和紙、シナベニア、麻|水性木版、樹脂活版
本|H879 × W660mm
その他資料|H290 × W800mm

作者より

この本の物語は宮沢賢治の「雨ニモマケズ」を元に描いたものだ。主人公は高校生の男の子。ボロボロの木造の家、自分にだけ見えるふわふわおじさん。彼の取り巻く環境に突如起こった出来事から何を学び気づくのか。

本は思考の装置、という考え方を元に自身の個人的な経験から生まれた物語を漫画と木版の技法で一冊の本にした。個人的な物語でも本を通して、読者と物語が1対1になる。それによって読者は共感し、そのストーリーに対して自分の考えを巡らすような構造。流通していないサイズの木版の本を展示するということによって、エンターテイメントとそうでないものの境界を探る。

竹内志織

担当教員より

版画と本は元来親和性がある。竹内の作品は日常生活に潜む不条理な出来事を漫画の形式を使って木版画で表現している。この和綴じの製本は部数が1部であり、鑑賞者を限定する役割があるが、そういう意味では豪華本の枠組みに入るかもしれない。展示では薄暗い空間に一冊の本が置かれているが、鑑賞者以外は作品に介在する事ができないという狙いもある。このような演出方法によって、本自体が持っている商業的な側面は薄れたが、アート作品としては自立したものとなった。補足ではあるが、竹内は美術作家であると同時に将来を期待される漫画家「たけうちしおり」でもある。

油絵学科教授 元田久治