山本起也

YAMAMOTO Tatsuya

グリーンバーグと装飾

論文|53ページ 約90,000字

作者より

本論は、20世紀アメリカ美術において絶大な影響力を持った美術批評家であるクレメント・グリーンバーグの批評と装飾の関係を検討するものである。
グリーンバーグのよく知られた純粋化の論理、つまり、芸術諸ジャンルはそれぞれに特有のメディウムへと還元されていくことによって純粋化していくという論理は、絵画や彫刻といった形式の固有性を強調する。グリーンバーグはとりわけ絵画を特権的な形式とみなし、フォーマリズムの実践によって絵画至上主義とも言える批評を打ち立てたという従来語られてきたナラティブは、一面的には正しい。しかし、絵画と装飾との関係を考えるとき、事態はそう単純ではない――

山本起也

担当教員より

抽象絵画と装飾との関係は抽象絵画の形成の当初から様々な議論を誘発する問題群を形成してきました。山本起也さんのきわめて優れた修士論文は、この問題群からアメリカのもっとも重要な美術批評家の一人であるクレメント・グリーンバーグの批評を精密に読み直すことによって、この批評家が同時代の美術の経験のさなかで視覚的イリュージョンという概念を作り出していく過程を明らかにすることに成功しています。このまったく新しい観点から書かれた本論文はきわめて高度な学術的貢献といえます。

美学美術史研究室教授 松浦寿夫