オウ タクイ

WANG Zewei

八千年の変遷を辿る:祭儀から戯への面像
—日中両国における儺面の視覚イメージの再構築—


論文|206ページ(60,000字)
年表|H2000 × W7000mm

作者より

儺(な)は、穢(けが)れを追い払い福を招くことである。中国古代の重要な祭祀行事であり、日本ないし東アジア全体で、儺文化の残存を見ることができる。千年前の儺祭祀も、近代の儺戯も、神霊や先祖に祈り、五穀豊穣と風調雨順の実現を望むというのは変わらない主題である。面像は人間と神の交流の媒介である。「娯神」のための儺祭を「娯人」のための儺戯に変える役割を担う。時代の流れとともに、面像の表現形態や視覚ランゲージも変化してきた。本研究では、各時代の政治、宗教、文化背景に合わせて面像造形の八千年にわたる歴史的変遷プロセスを探索する。また日中両国における面像にまつわる視覚ランゲージを分析することにより、造像観の背後に人間と外界との関係がいかに具現化されたのかを考察する。このように面像造形の意味性をつぶさに追ったうえで、新たな面像の視覚イメージの再構築を試みる。

オウ タクイ

担当教員より

作者は新石器時代から現代に至るまでの膨大な面像を収集し、各時代における社会、文化、宗教などの事象を関係づけながら、面像の意味性がどのように変遷してきたのかを年表の制作を通じて探ってきた。そこで彼が見出したものとは、人類が自然環境と共生していくための祈りの視覚ランゲージの発展史であり、人間が面像を神と交信するメディアとして位置付けていたことであった。民俗学、文化人類学の文脈で研究されることが多い面像の研究を視覚伝達デザインの観点から切り込んだ点でも貴重である。特に論文後半で述べている各時代の象徴的な面像をエレメントごとに分解し、それらがどのような意味性を持っているかを特定し、面像として統合される際の構成の法則にまで分析が及んだことは特筆に値する。膨大な先行研究を読み込んだうえで、面像を造形的に分解し、独自の解釈につなげた高度な思考力と造形力は大変素晴らしいものだった。

視覚伝達デザイン学科教授 中野豪雄