辻美紅

TSUJI Miku

その先
Beyond that

高知麻紙、岩絵具、水干絵具、墨、木炭、クレヨン、パステル
H1940 × W5212mm

作者より

幼いころから絵を描いてきた。いろんなことを学び考える中で、自分の至らなさから同じ場所を彷徨い、一人深い森の中を迷子になったような不安感を感じることがあった。掴めそうで掴めない距離感に戸惑い、幾度も迷った。一方で、その複雑で多様で豊かな世界に惹かれて今もここにいるとも思っている。今は見えないその先を見てみたい。

辻美紅

担当教員より

竹久夢二の女性像のある作品群にも似る憂いを帯びた世界観がここには在る。
この横長の大作は真っ黒に広がる不透明で先行きのない闇をとうに枯れ切った屍のような樹林の先へ、留まるとも進むともない一人の緋衣の女性が佇む。
人生とは、先行きが不透明でありその道は梢のように無数に枝分かれをする。自らが努力をしても必ずしもそれが報われるとは限らない。全てに戸惑いを感じ自らが何を信じて行動を起こせば良いのか…。
この作者である辻に関わらず、生きる者誰しもが抱かずには居られない心の不安がここには描かれているのである。
辻は小手先ではなく全身の動きを以てこの作品を描き切ることにより得たようだが、ただ自らはひたすらに弱々しく不安のうちにじっとあるのではなく、自らの全霊でその慟哭を力一杯に吐き出し、それを直視してしまうことこそが、これからの未来を強く太くする。即ちそれが明日を生きる強度ということなのだろう。

日本画学科教授 岩田壮平