ヨウ シシュン

YANG Zijun

書道における仮名文字の構成要素から活字組版への展開 ─「高野切第一種」と近世の出版物を中心に─

論文|152ページ(43,080字)
復刻本|H305 × W112mm

作者より

本研究は書道における仮名が活字組版へ展開していくルーツの研究である。仮名の書と活字の背後にある関係と影響を探究するために、仮名文字の表裏に隠された構成要素の分析から出発し、活字組版における書道の構成要素の応用を調査した。その結果、仮名の構成要素を整理するうちに、「言語意識」の発見により、日本人が一般的に持っている言語観が文字形態に影響を与え、出版物で表現様式として使われていることをわかった。
仮名書の構成要素と活字出版物の表現様式を踏まえた分析から、「高野切第一種」の字形をベースにした書体の実験的試作を行った。この書体は現代人が持っている言語意識を反映することで、能動的に仮名の美しさを実感できるものである。

ヨウ シシュン

担当教員より

研究対象は日本の古筆の筆頭、紀貫之の『高野切第一種』。ヨウによる草書の臨書は、のちに展開される論旨の組み立てにとって必然となる。線描(筆跡)とその配置と空間の意味、それこそがヨウが求めたものである。論旨として具体的に提示された「言語構造による日本語の配置と空間」というこれまでにないヨウの切り口は、視感覚に拠っていた空間論を見事なまでに過去のものとした。そしてそれは、デジタルという現代の組版空間へと照射された。追記として『高野切第一種』をもとにした書体データは、ヨウにとっては目的でなく、あくまで空間と構造を探るべくための試作であった。

視覚伝達デザイン学科教授 白井敬尚