田野勝晴

TANO Katsuharu

dawn

dusk

光のあるところ
where there is light

密やかな結晶
Crystals in secrecy

綿布、キャンバス、油絵具
H1618 × W1450mm、H2273 × W1455mm、H2000 × W1700mm、H1920 × W1620mm

作者より

暗闇のなかで空間と自分の境界線が曖昧になる状態や、夜明けのうつろいゆく空など、恐怖と安堵、闇と光といった対極にあるものが同時に存在し緩やかに移行していく状態に身を置くとき、自分という存在が薄れていくかわりに大いなる流れの中に包み込まれていくような感覚を抱くことがあります。そのような情景は幼い頃の記憶や風景と重なり結びつきながら、見えないものを感じたり自然や光に対する根源的な感覚を呼び起こしてくれるものなのだと思います。

田野勝晴

担当教員より

田野勝晴は、自然と人間との関わりを通して絵を描いてきた。それは彼にとって、なぜ絵を描くのかという自身への問いかけでもあった。北海道で生まれ育った田野は、自分自身が豊かな自然によって形作られてきたのだということを、東京に住んで初めて意識したという。修了制作にとりかかるにあたり、彼は何を描くのかということよりも、どう描くのかということに重きをおいて試行錯誤していった。絵具と溶剤の混ざり具合や支持体となる素材、支持体と筆との関係など、ひとつひとつを丹念に確かめていった。それは彼にとって、自身の内に取り込まれた自然の感触を確かめるための儀式のようなものだったのかもしれない。そしてできるだけ自然に、何かを描こうという意識を持たずに絵を描こうとした。
どこからか光が放たれて、夜の闇の中で輝くものたち。光を纏って踊る動物や植物、風に乗って連なる鉱物や草花、池に浮かぶ舟など。柔らかな色調で描かれた画面は幻想的で、澄んだ冷たい空気と同時に暖かさも感じる。観ていると一瞬の仄めきによって時間が止まったような静寂に包まれる。光の印象は以前にも増して強まったが、それは光だけではなく闇にも意識が向かうようになったことが反映しているという。自分自身に向き合い、無心になって絵を描こうとしたことで、蓄積された様々なものが豊かなイメージとなって立ち現れてきた。その絵はまさしく、今の田野自身である。

油絵学科教授 小林孝亘