ゴウケ

GOU KE

Lucence


インスタレーション|H1100 × W400 × D3500mm
本|H280 × W255mm

作者より

光を見つめていると、心のどこかがふと静かにほどけていく瞬間がある。
海面でかすかに揺れる青い水平線、木漏れ日が生む影の震え、屈折した光による色彩の微かな揺らぎ――
形の定まらないこれらの景色は、触れられないのに、なぜか深く記憶に沈んでいく。
「本来なら掴めないはずのものが心に残る」という感覚に惹かれ、そのわずかな変化に耳を澄ませることから考察が始まった。
では、光をどのように感じ取り、この曖昧な感覚に近づくことができるのか。
そう問い直したとき、目の前に浮かび上がったのが「半透明」という状態である。
透明でも不透明でもない、その淡く漂う質感。
光はやわらかく通り抜けるが、内部の形は完全には現れず、輪郭だけがほのかに滲むように立ち上がる。
影はゆるやかに溶け広がり、まるで記憶の深層から静かに浮き上がる風景のような曖昧さが、強く心を掴んだ。
この「曖昧な光」を捉えるために半透明紙を用いた。
光を柔らかく受け止め、奥の形をぼかしながら、輪郭のみを微かに浮かび上がらせる素材である。
その振る舞いを観察し、記憶にとどまる光景を三つのシリーズとして立体化した。
海の水平線を扱う《Lucence I. Horizon》、植物の影を捉えた《Lucence II. Plants》、色彩がほどけていく瞬間に着目した《Lucence III. Line》である。
暗室に展示した九つの作品は、光源や鑑賞者の動きに応じて静かに変化する。
光が紙の層のあいだから染み込み、影が淡く揺れ続けるその時間は、ある風景が生まれ、消え、また別の気配として立ち上がる過程そのものでもある。
同時に制作した本では、異なる光環境のもとで半透明の立体が示す多様な景色を収録し、本研究の広がりを補完している。
本作は、光を定義したり明確に描写したりすることを目的とした作品ではない。
半透明という視点を通して「感覚が立ち上がるその瞬間」を探り、曖昧さを抱えたまま潜む柔らかな気配をすくい上げる試みである。
透明でも不透明でもない、はっきりと名づけることのできないそのあわいに、光はひそやかに留まり、見る者の内側に、まだ言葉になる前の記憶をそっと呼び起こす。

ゴウケ

担当教員より

乳白色の、あるいは霧をまとったというべき、湿気を孕んだ直方体のオブジェ。軽やかな半透明紙でつくられているにもかからず、エッジの効いた中実の充実感を与える仕上がりだ。オブジェの中には、空間を二分割する水平線、障子越しに揺らめく樹木の葉、空間をよぎる幾何学的な細い線が設られている。精度の高い作品は、理解の解像度を高めるだけでなく、感覚の繊細な領域を呼び覚ましてくれる。「感覚が立ち上がるその瞬間」を探った作者の研究は、デザイン学における「くもり」という概念を、視覚的なモデルとして見事なまでに提示している。

基礎デザイン学科教授 板東孝明